ソラノハテ:第三話

「ふむ・・・」
紫羽(シウ)は学校をあとにすると、そのまま図書館へと向かった。
もちろん、本を返すためである。
しかし明らかに後をつけられているようだ。
「しっかし、あれじゃあ、モロバレだよねぇ?」
誰とはなしに話し掛ける。
イヤフォンでつながっているOKINAからは苦笑と返事が来た。
「わかってやっているんですよ。紫羽が早くその本を返しに行くようにね」
「ま、そんなところだろうとは思ったけどさ」
紫羽は肩をすくめた。
これではやはり本を悠長に読んでみたり、自宅にもって帰ったら何をされるかわかったものではない。
逆にいえば、それだけ重要な文献なのだろう。
「んで、どう?そろそろ終わりそう?あんまりのんびり歩くのも怪しまれると思うんだけどな」
「ん・・・もう少しですね。その速度で歩いていただけるのであれば、あとはそのまま図書館まで歩いていただいて結構です」
「あいよー」

・・・

つまりはそういうことである。

紫羽を追跡している追っ手にしてみれば、一般的な坊やに対して絶対的な力を見せ付けたのだ。
当然恐れおののいた対象は早速本を返しにいくことだろう。
紫羽もそのような行動をとっているように見えた。

しかしながら。

しかしながらである。

紫羽のサポートについているのは、OKINAという人格つきナビである。
この世界の一般的なナビと違い、人間の音声で操作できるだけでなく、自分からマスターに対して注意を促したり、自発的にネットワークの中を行動したりする紫羽専用のナビなのである。
普通のナビは一般的な電子手帳の延長でしかなく、たいした機能はもっていない。
せいぜい城(セン)のコンピュータを呼び出して必要な情報を検索する程度だ。
しかし、OKINAはそんな生ぬるい性能だけにはとどまらないのだ。
現に本と重ねられたOKINAは、その本の全ページをスキャンしている最中であった。
枚数が多いので、一瞬というわけにはいかないが、紫羽がゆっくりと図書館に行くぐらいの時間があれば全部ナビの中に取り込めてしまうというわけである。

・・・図書館に着いた。

図書館はいつもどおりの静けさと寒さをもって紫羽を迎えた。
昨日よりいくらか雰囲気が違っているように感じなくもないが、あんなことがあった直後だ。
なんとなく気分が萎縮しているのだろうと、自分に言い聞かせる。
「さて、今更って気もするけど、一応こっそりと返しておく?」
紫羽は苦笑いをしながら独り言を言った。
OKINAからの返事は特にない。
きちんと借りたわけでもないので、特に図書館司書に断るわけでもなく図書館の中に入っていく。
そして、一番奥の棚にある、その本を借りた場所に返す。
おそらく、明日にはもうこの本はないだろう。
周りにたくさんの気配を感じる。
早く処分したくて仕方ないという雰囲気だ。
「とっとと帰りますかね」
その気配に辟易しながら紫羽はとっとと退散することにした。
長居は無用だ。
中身を確認しようものなら、何をされるかわかったものではない。
図書館を出るとき、司書が怪訝そうな顔をしたが特に気にせずさっさと図書館を出る。
追っ手はいなくなったようだ。
「ひとまずは安心かな?」
紫羽は手に握ったOKINAに話し掛ける。
「あからさまなプレッシャーはなくなったようですね。あとはあまり天羽についてかかわらない期間をいくらか取れば大丈夫ではないでしょうか」
「そういうわけにもいかないんだけどねぇ」
おもわずため息をつく。
やっと手に入れた手がかりだ。
長い間・・・といっても高々十数年だが・・・あこがれてきた天羽についての手がかりがつかめたのである。
それを手放すのはあまりにも惜しい。
そして、悔しい。
大きな力がその知識が広まるのを恐れていることはわかった。
ということは、それだけ重要な内容だということだ。
単なる秘密とかそういうレベルの話ではない。
紫羽は本能的にそんな気配を感じ取っていた。
「深雨(ミウ)、大丈夫かな?」
ふと、空を見る。
「大丈夫でしょう。あの時点では紫羽から何かを聞いているというわけでもありませんでしたし、深雨さんが紫羽に協力していたのは自分の家のコンピュータを貸していただけですから、むしろ深雨さんちの管理下におかれていたわけですし。ということは、深雨さんには情報が流れていないことはあの人の家の人が一番よく知っていることでしょう。ま、明日はどういうことかという質問攻めにあうのは覚悟しておいたほうがいいでしょうけどね」
あはは、とOKINAは笑った。
「そーだなー。さしあたっての一番の心配は、明日の深雨に対するいいわけだね。めんどくさいなー」
「ま、自宅に帰ってゆっくりすることにしましょう。資料の調査は急ぐこともないですし」
「りょーかいー。んじゃ、帰るとしますか」
紫羽は帰途についた。
明日は深雨とどんな話をしようか。
そんなことを考えながら。

しかし。
翌日深雨は現れなかったのである。


To be.....




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2003 07/07 Written by ZIN Kozan
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